長谷川 亘(はせがわ・わたる)
京都コンピュータ学院統括理事・京都情報大学院大学教授
米国コロンビア大学ティーチャーズカレッジ 教育学M.Ed.。
(社)京都府情報産業協会会長。全国地域情報産業団体連合会理事。
京都コンピュータ学院創立45周年・京都情報大学院大学創立5周年記念式典にあたり,本日ここに,京都市長はじめ,関係各国の大使閣下ならびに大使館関係の皆様,国内外の各教育機関,各法人の皆様方,また,多くの企業の皆々様にご臨席賜りましたことを,心より厚く御礼申しあげます。
京都コンピュータ学院は,本年,創立45周年の節目を迎えました。また,2004年に開学した京都情報大学院大学は,早いもので創立5周年となります。本日のこの良き日を,卒業生・校友の皆様,講師の方々とご一緒に迎えることができましたことは,私ども教職員ならびに本学在学生にとって,大いなる喜びであります。
本学は現在,京都コンピュータ学院洛北校,鴨川校,京都駅前校,京都日本語研修センター,そして,京都情報大学院大学の各カレッジと,人材派遣会社であるKCGキャリアなどをもって,京都市内にkcg.eduグループを構成しております。ここでは,歴史を振り返りながら未来への展望について,お話しさせていただきます。
京都コンピュータ学院の原点は,京都大学の卒業生であり,大学院生であった初代学院長・長谷川繁雄と現学院長・長谷川靖子が始めた私塾にあります。これは,若者が自宅で始めた中高校生対象の小さな私塾でしたが,1963年(昭和38年)に,その教室で,京都大学の若手研究者を中心とした「FORTRAN研究会」が始まりました。コンピュータがごく一部の研究者だけのものであった時代にあって,その研究会は日を重ねるにつれ,近畿圏の他大学の研究者や企業関係者にも知られるところとなります。本日は最高顧問の堀場様ご本人にご来臨賜っておりますが,株式会社堀場製作所様における,最初期のコンピュータプログラムを書いたのは,現学院長・長谷川靖子でありました。そのご縁もあって堀場様には,京都情報大学院大学の設立発起人としてご参与いただいたのは,記憶に新しいところです。
その後,1969年(昭和44年)に「京都コンピュータ学院」という校名を掲げて,高校卒業者を対象とする全日制課程が開設されました。そのときに学院創立者 初代学院長・長谷川繁雄は,「ソフトウェアとは,ものの考え方のことであって,哲学の一種であり,これは人類史を変革する」という言葉を残しております。爾来,本学は常にソフトウェア技術の学問的性格を重視し,単なる技術知識の伝授に終始することなく,理論を重視したコンピュータの教育を実践してきました。このポリシーは,今日の本学にも脈々と受け継がれており,私どもが寄って立つところの教育哲学の根幹をなしております。
哲学の一様式であるソフトウェアは,ハードウェアという実体を伴って現実的な道具,即ちコンピュータとなり,いまや人類社会のほぼすべての側面に進出しています。電話も家電も自動車も電車も飛行機も,すべては古の呼称・名称はそのままに残しながら,コンピュータが制御し,それなくしては機能しない,新たな機械へと変貌を遂げています。今,コンピュータは,まるで水や空気の如く人類社会に必要不可欠なものとなりました。こうして本学が今も存在することは,いみじくも創立者が標榜した教育理念が,正鵠を得ていたことの証左といえるでしょう。
5年前,2004年に,私どもは小さいながらも大学院大学を開学し,創立者の念願であった大学認可をいただき,IT専門職分野におけるターミナルディグリー(その分野の国内最高学位)を授与するに至りました。企業等外部からの資本提供もなく,無一文で始まった小さな私塾が,時を重ねて大学認可を得た例は,わが国においては寡聞にして知るところではなく,世界の大学史の中でも極めて稀であると思います。教育制度の変化に伴い,2006年から,京都コンピュータ学院は「高度専門士」の称号を授与できるようになり,本学4年制学科の卒業生は大学院への入学資格や国家資格要件においても,四年制大学卒の「学士」と同等になりました。学位・称号の授与権は国から付与されるものですが,それはまた本学教職員と在学生・卒業生が,皆で歴史を重ねて創り上げたものでもあるのです。
他方,外部社会では,昨今のアメリカ経済の例を持ち出すまでもなく,世界中で旧来の秩序は瓦解し,いわば乱世が始まっています。これは,コンピュータ業界でも同様で,教育業界も決して無関係ではありません。そして,現在の日本の教育制度とそれを取り巻く環境も,大きな変化の渦中にあります。「大学全入時代」が到来し,専修学校と短期大学に続いて四年制大学の淘汰が始まりました。まさに,各教育機関の独自性とその真価が問われるべきときであるのですが,「多くの大学が画一的に専門学校化の道程にある」と批評され,教育制度は乱脈を極めて,もはや,「大学」と「専門学校」 の制度的差異も価値分類も,雲散霧消してしまいました。この混迷する時代のさなかにあって,次の時代にどのように挑むのか,本学は自らを抜本的に再定義するときに来ています。
本学は,古くからの関係のある京都大学を始めとし,アメリカのMITやハーバード,ロチェスター工科大学(RIT)やコロンビア大学など,海外の諸大学とも密接な関係を持ちながら,コンピュータ関係のみならず,各分野で先達に学びつつ,常に,「学校としての情報教育の本質」を問うてきました。いつの時代も次代の要請に即応して,カリキュラム改革にも積極的に取り組んできております。そして,来年度,2009年度からは,例年の修正的改正ではなく,学科構成の抜本的な改革を実行して,来る50周年に向かって展開いたします。修士課程へと有機的連関を伴って繋がる,コンピュータ関連分野を網羅する5学系18学科の新体制ですが,これは,旧来のアカデミックディシプリンを超えるための新しい挑戦でもあります。
情報,コンピュータ,あるいはIT・ICTの関連分野は,既存の分類に基づく「工学の一分野」というような概念を遥かに超えて,あらゆる分野を支え変革し発展させる力を持った,異次元にある体系(システム)をなしています。そして,英語で言うスクールという言葉には,「集まり」という意味がありますが,人が集まり,未来を見据え,新しいことを始めるところとして本学は,関わる人々を,国内・海外とバーチャル・リアルのそれぞれ縦横にネットワーク化して,全く新しい形態の「スクール」を再構築しようとしています。大局的観点で時代の最先端を見据え,世界的視野を持って経済の発展と産業界の振興を担う,優れた人材を育成するためには,学校や教育に関わる既成概念はすべて,すでに古いと言わざるを得ません。グローバル化で国境の意味が薄れた昨今,バーチャルとリアルもすでに対立概念ではなくなりました。両方を一つの世界観として育ってきた若者のために,学内で現在企画しているさまざまなプランは,5年後には現実化し,皆様の前でその経緯を縷々ご説明できるようになっていることでしょう。
本日は,大使の方々はじめ各国の大学・教育関係の方々にもご列席いただいております。本学と海外諸国との良きお付き合いは,外務省ならびにJICA(独立行政法人国際協力機構)のご指導ご協力もあって,継続的に発展してきております。本学は,1989年から,発展途上国支援を開始し,パソコンの大量寄贈と当該国の教員指導を行ってきました。一国の情報化の一翼を担わせていただきますと,本学も多面的に進化発展します。近年では,本学がカリキュラム設計と教員指導を行って,モザンビーク共和国に,同国の新制度に基づくITの高等教育機関が開学しました。また,自動車業界のIT化に即応すべく2005年に開設した「自動車制御学科」は,国内の自動車産業界で高い評価をいただいておりますが,本年9月に姉妹校である中国の天津科技大学に,本学がカリキュラム設計と教材提供を行って,「中国最初の自動車制御学科」が開設されました。このように本学の考えるところの真理が,異国で現実化することは光栄の極みであります。
卒業生の皆さん,本学は,国内のみならず世界各国でも,高い評価をいただいております。これはひとえに,卒業生の皆さんの社会でのご活躍によるものであることを,いま一度ご確認ください。創立以来45年の間に輩出した卒業生の方々は,インターネットが普及する以前のパソコン通信の時代からはネットで,それ以前は他の方法で,国境を越えて情報交換しながら,それぞれ社会のあらゆる分野で活躍しています。小さいながらも古いコンピュータの学校であるからこそ,どの業界のいずれの分野にも,役員クラスの世代から新卒のフレッシュマンに至るまで,すべての世代の本学の卒業生が存在し,かつ,持ち前の情報通信のスキルでもって,ネットワーク化されています。別々の個々人ではなく,人のネットワークとしての技術者を大量輩出してきたことは,本学が最も誇るところであります。在学生の皆さんは,KCG伝統のパイオニア精神をもって,友達同士協力し合い,立派な先輩方に続いてください。本学の教職員は,卒業生,在学生の皆さんが,それぞれの道を力強く歩まれ,自らの未来を切り拓いていかれることを,いつも心から願い,全面的に応援しております。
45年という歴史の中で,私どもは,大勢の方々の温かいご支援をいただいてまいりました。最後になりましたが,皆様に心から御礼申しあげるとともに,京都コンピュータ学院ならびに京都情報大学院大学の発展に,今後とも変わらぬご支援ご協力と,ご指導ご鞭撻を賜わりますよう,教職員一同,お願い申しあげます。
本日は,お忙しい中,ご来臨賜り,本当にありがとうございました。